ガクショウ印象論壇

同人誌用の原稿ストックを目的として、ラノベ読んだメモなどを書きちらすブログです【ネタバレだらけ】

2012年の夏はゾンビがアツい

 定期的にロメロブームというのは来ますし、それでなくても新しいゾンビ映画が公開されるたびに映画秘宝などが全力で取り上げたりするものですから、なんだか年がら年中大小ゾンビブームが起こっているような錯覚も覚えますが、マイアミゾンビとかいう本物のゾンビが出現したことにより今度の今度こそガチのゾンビブームが起こっている気がします。

 

 ラノベ読みにとってゾンビといえば最近はメジャーなところで『これはゾンビですか?』、マイナーなもので大樹連司『オブザデッド・マニアックス』とか。明確にゾンビとは言っていないのですがその昔スニーカーから出ていた時無ゆたか『明日の夜明け』というのが実質的にはゾンビものだったことを唐突に思い出しました。
 マイナーと言いつつ『オブザデッド・マニアックス』のほうは、まずトリビア集積志向の大樹連司ガガガ文庫というラノベ界の映画秘宝的レーベルでリリースするというその出自そのものがすでに自覚的というか再帰的なマニアックさを宿命付けているので、これを素直にマイナーと言ってしまうのは何か間違っているのかもしれませんが、まあしかし売れてはいないでしょうねえ。
 読売の記事に出てた多宇部貞人『シロクロネクロ』とか田口仙年堂『Zぼーいず/プリンセス』あたりはタイトルを聞いたことくらいしかないのですが、モンスターパニック系譜のほうのゾンビじゃなくて、回復魔法とせいすいでダメージ受けるRPG由来のゾンビとかだったりしそうな雰囲気。読んでいないから分からないけれども、どちらも巻数出ているし、それこそゾンビのような中高生にはけっこう受けているのかもしれない。読まずに批判めいたことを書くのはどうかと思いますが、しかし読みもせずに一方的に断罪してみたりするのもラノベの楽しみ方の1つであるのは確かです。
 その点でいうと『これはゾンビですか?』は、アニメ版のそれも1期しか見ていないので正確にはラノベ評とは言えないのですが、馬鹿騒ぎの合間に不死者の悲哀みたいなものをわりとしっかり入れてきているのが良かったです。これ普通にやると、ただ軽い話と重い話が交互に出てくるだけの双極性障害みたいなプロットになって物凄く入り込んでる人以外はポカーンとなってしまうものですが、『これゾン』はそのへんをすごく上手く作っていると感じました。「日常」を演出する方法として、『ひぐらしのなく頃に』のようにバカ騒ぎをくどいくらい延々描写するという手もあると思いますが、あれは相当波長が合う人でないと受け入れるのが難しく(幸い僕は一致していましたが)、もう少し歩留まりの良い感情動員を仕掛けてくれる作品があってもいいよなあと思っていたところでした。その点で『これゾン』は日常感の演出として、日本の一般的な建て売り住宅の描写をあそこまでしっかりやることで、それを担保していたのかなと思います。


 そもそもラノベ的・アニメ的・エロゲー的な描写においては、まず家族、特に父母の存在というのはかなりの確率で無かったことにされているか、もしくはそれ自体が主題または副題めいている(『クラナド』『さよならピアノソナタ』『とらドラ!』)のどちらかのように思われます。そのへんはわりと極端です。むろん商業エンタメですから、「特に書く必要」が無ければ描写が削られるのはある程度当然なのですが、しかしさしたる意味もなく、しかし家族がちゃんと描かれる『イリヤの空、UFOの夏』みたいなのも、これ自体がかなり特殊なラノベだとはいえ、確かにあるわけで、やはりラノベ(等)における父母描写はオールオアナッシングの傾向が強い気がします。
 兄弟姉妹に関しては、兄弟は主にどちらも主人公より圧倒的に優れたスペックを持っていて主人公の劣等感の原因になっている場合が多く(竹宮ゆゆこわたしたちの田村くん』、石川博品『耳刈りネルリ』シリーズおよび『クズがみるみるそれなりになる「カマタリさん式」モテ入門』)、姉は「弟に家事全般を強要する暴力的または粗雑な姉」(ちょっと出てこないけどすげー沢山読んだ気がする)として出てきて、しばしば物語冒頭において主人公に対し「抗えない運命」の表象として物語の初動を作る存在であることが多いです(米澤穂信の古典部シリーズとか)。んで妹は……まあ言わなくても分かりますよね。
 そうすると、それにつられて普通は住宅の描写もバッサリ削られるか、もしくは『クラナド』における古河パンや『とらドラ!』における高須家アパートおよび大河のマンションの対比のようにかなり特殊な物語的機能を備えた施設として詳細に描写されることになります。

 

 えーと何の話でしたっけ。ああそうゾンビゾンビ。ついでに家族の話に触れておくと、『オブザデッド・マニアックス』にもまた「化け物じみた姉」が登場しますね。こちらは物語の始まりではなく終わりのための装置です。どちらにせよ姉がデウスエクスマキナ的なものとして描かれている率ってかなり高いと思います。「兄」がしばしば強力な味方もしくは敵だったりするのに比べると対照的というか、ねじれの位置的。
 ほんで、大樹連司がガガガで出している著作のうち、ノベライズの『ぼくらの』『スマガ』を除いた、文化系3部作とでも言うべき『ほうかごのロケッティア』『ボンクラーズ・ドントクライ』『オブザデッド・マニアックス』は、どれも基本的に同じ方向を向いた物語になってます。つまりこれらの作品では、主人公達は何らかの理由でそれぞれ「自作ロケット」「特撮映画」「ゾンビ」に熱狂し、そしてどれも各ジャンル史を概観するような形でたくさんの蘊蓄を挟みつつ、つまらなくはないのだけどどこか予定調和的な起伏でストーリーを進行させて行くことになります。このストーリーというのが、かなり綺麗な教科書的プロットを持っているにもかかわらず、というかむしろそれゆえに? なぜか蘊蓄のための断片と断片を上手く繋げるために敷かれた流れに見えてしまうというところが、大樹作品の危うさというか何というか。例えるなら、自動車教習所で免許更新の時に見せられる「自動車事故で人生棒にふったったwwwww」みたいなショートフィルム、あれに近い印象を受けます。さすがに進研ゼミのマンガほどの露骨さでは無いけれど、こんなん言うとテメェ何様だよって感じですが、この人作家よりも編集者のほうが向いてんじゃねえの、と思ってしまう書き口です。誤解を恐れずにイージーな言い方をしてしまうと、この人も大変に器用貧乏な作家という気がします。
まあでもえろかったからよかった。えろかったっていうか、えっちかったよ。

 「ゾンビ流行ってるらしいぜ」つって『あるゾンビ少女の災難』が萌え絵魔改造されて文庫入りしたり、著者本人が歌うっていう許斐先生もびっくりPV展開してる伊東ちはや『妹がゾンビなんですけど!』がPHP出版のスマッシュ文庫という僕が1度も手にとったことがレーベルから出てたりして、PHP出版ってのはそもそも出自からしてそういう「厭らしい」本を出すためのレーベルですから、そこが嗅ぎつけてくるってのはやっぱり本当のゾンビブームなんだろうなあと思います。


 しかし、今本当にゾンビが流行っている業界はラノベや映画ではなく、ソーシャルゲーム市場なわけです。『ゾンビカフェ』『ゾンビレストラン』『ゾンビージョンビー』『ゾンビカーニバル』……まあソーシャルゲームといえば「戦国」が売れるつったらそこらじゅう戦国、三国志だつったら三国志、厨二ファンタジーだっつったらどっち向いてもドラゴン、胴元のGREEの社長自ら「『魔神英雄伝ワタル』みたいにユーザーが完全に飽きるまで同じのを作れ!』とかおっしゃるような美しすぎる世界なわけですが、それにしたって「戦国」「三国志」「ドラゴン」と並んで人気のジャンルが「ゾンビ」って誰が聞いても違和感しか無いんじゃないすか。
 ただ、ソーシャルゲームの強さの一因としてヴァイラル(平たく言うとユーザー紹介特典)という要素がありまして、まあ人を紹介すると何らかの報償があるというシステム自体はもちろん何ら新しいものではなく、最近もノマドの昇り龍(by切込隊長)こと安藤美冬さんの主要な収入源として注目されたアムウェイなどのマルチ(まがい)商法なんかが有名ですけど、ただこの、人を呼んできまくれ、という胡散臭いシステムが、「ゾンビ物」の時だけはむしろ演出の一部として機能させられるというのはあるかもしれません。ゾンビに噛まれるとたいがいゾンビになってしまいますが、ソーシャルゲームにハマった人が特典欲しさに招待送りまくってるのって本当にアレと良く似た光景ですよね。まあつまり何が言いたいかというと、ショッピングモールを徘徊するゾンビは消費社会の戯画である説というのがありますが、あれに乗っ取って考えると今日のゾンビはヴァイラルマーケティングの戯画としてスマホの小さな画面の中をウロウロしているのかもしれませんよっていう上手い話。


 あああと唐突に疑問なんですけど、ゾンビものに悲哀要素というか詩情というかを最初にくっつけたのは誰なのでしょう。「オルフェウス神話だろ」って言われたらふみゅーんってなりますが、いや、もう少し現代的な文脈でかつポップカルチャー的なやつで、しかもオタ系のクリエイターに直接的な影響を与えたもの……というと、大槻ケンヂ『ステーシー』というか『再殺部隊』とかがかなり大きな影響力があったのではないかと思われるんですが、『どこへでも行ける切符』→綾波レイ→『アルエ』ほどのはっきりした痕跡は見いだせない。『オブザデッド・マニアックス』には『ステーシー』への言及があったものの、これはそもそも「メタゾンビもの」なので当然と言えば当然だし……。それにしてもガガガ文庫ラインナップのオーケン感は異常。オモイデ教のスピンオフとかも出しているし、そろそろガガガ文庫からオーケン本人が何か出すんじゃないかという気もします。
 あとはクトゥルーをGAに取られてきっと地団駄踏んでいるであろうガガガ編集部、そろそろ小中千昭あたりに頼んで青春UFOモノとかを書いてもらうべきではないのでしょうか。あの夏、八王子の山奥でオレ達は確かに見たんだ、空一面のUFOと、内蔵が空っぽになったイノシシの死骸、黒いスーツの2人組――。みたいなやつを。

 あ、あと家族の話をすると、僕の弟は本当に「ゾンビ」「オブ・ザ・デッド」と名の付く映画を片っ端から見ているゾンビ映画オタクでしかも重度のFPS症候群なのですが、彼はそこそこの高学歴(しかも文学部)であるにも関わらず『オブザデッド・マニアックス』で主人公2人が滔々と説くようなゾンビの文化誌には一切興味を示さず、ただひたすらふざけた方法でゾンビを損壊しながらサバイバルをするという「シーンの連続」にのみ反応するのが、僕から見ると大変に不思議です。しかも彼はイケメンなんですよ。そこが一番不思議ですね。

 

 本当は最近知った「おじろく」「おばさ」の存在と、最近増えたらしい鬱病(のかなりガチなやつ)を短絡的に結び付けてさらにゾンビの話につなげたりもしたかったのですがそういうのは創作でやるべきだな。